地獄の番犬は自ら地獄へと迷い込んでいた。「2025年の自分は終わっていましたね。勝ち方も負け方もダメ。まあ最後はいい締めくくりができたと思いますけど」
記事・写真:布施鋼治、試合写真:池田博紀
木村゛ケルベロス゛颯太(心将塾)の昨年度の通算戦績は4戦3勝(1KO)1敗。数字だけで判断すると、勝率75%と決して悪くない。しかしながらケルベロスの中では25年6月29日のRISE189でスアレックTEPPEN GYM(TEAM TEPPEN)にムエタイの洗礼を浴びるような内容で敗れた一戦が心に暗い影を落とし続けている。
「結局、自分に勝っているつもりでも、負けていましたね。落ち込みました」
同年の最終試合となった11月9日のRISE193で田中佑樹(TARGET SHIBUYA)に1R開始わずか24秒、右ストレートで戦慄のKO劇を魅せたことが唯一の救いだったか。ケルベロスは気持ちも新たに新春第1戦となる2月23日の団体設立23周年記念イベント、RISE196で麻火佑太郎(PHOENIX)と拳を交わす。
麻火がRISEスーパーライト級1位ならば、ケルベロスは同級7位なので、ランキング上位陣との対戦となる。両者は22年5月のRISE158で初対決。このときはケルベロスが2度ダウンを奪った末に完勝しているが、その後麻火は覚醒。ムエタイの強豪セクサン・オー・クワンムアンや欧州キック界期待のヤン・カッファを逆転KOで破るなど、気がつけばケルベロスとの立場を逆転させていた。
1月9日に行われた記者会見でケルベロスは得意のトラッシュトークを封印した。
「前回やった時は煽ってましたが、今は格上の麻火選手、試合を受けてくれてありがとうございます。今日はそんなに煽れないです」
ケルベロスのトラッシュトークにまつわる逸話といえば、2023年11月の『FIGHT CLUB』の記者会見で朝倉未来に「お前、誰?」と詰め寄られ、思考停止状態に。その後゛チワワ゛扱いされたことで、いやがうえにも知名度は高まった逸話が記憶に残る。ケルベロスは朝倉に「感謝しかない」と振り返る一方で、会見当日の意外な事実を打ち明けた。「朝倉さんの言っていることは正論やったし、僕の体調は悪いし、散々な1日でした」
エッ!? 体調が悪かった?
「あの日(会見前に)彼女にフラれたんですよ。だから、もう無理と思っていました。思い出したくもないけど、そういうことがあったせいで、会見のときには何も頭が動かなかった。(エネルギーもなかったので)何も言い返すことはないなって。辛かったです」
あれから3年、朝倉に罵倒されたことでケルベロスの名は格闘技界で完全に定着した。しかし、冒頭でも触れたようにキックボクサーとしての地位まで定着したわけではない。ランキング7位という立ち位置が全てを物語っている。ケルベロスも、そのことは自認している。「キャラクターは落ち着いたけど、選手としてはフワフワしたままですからね」
そんなポジションから脱却するためには、麻火を返り討ちにするしかない。「タイプ的には得意な方ですが、めっちゃ強くなっているので、ヒザ蹴りとかやめて欲しいですね(微笑)
ヒールからベビーフェースへの転身を図っているとも受け取れる発言には麻火も微笑とともに頷くしかない。
「最初にやった時よりキャラがいいふうに変わったと思います。その当時は憎いなと言うか、いい印象がなかったけれど、試合を見ていくうちに殻を破っている(のがわかった)。最近は癒しキャラになっているので、僕も試合前は煽りもなく純粋に試合を楽しめる。4年前とは違う試合を楽しみたい」
初対決時の自分のキャラについて訊くと、ケルベロスは「若かったから、あれはあれでしゃあない」と苦笑いを浮かべた。
「髪形はコーンローにしてため口で調子に乗ったことを言っていましたね。そういう時期があったからいまがあると思いたい」
地獄の番犬というキャラとは裏腹に練習では第三者の意見を素直に聞き入れる方だ。
「僕に対する意見は基本全て聞き入れます。それから自分の中でどうするかは別問題ですけど、とにかく耳を傾けます」
前戦の田中戦のように、作戦はズバリ的中するのか。麻火に勝てば、ケルベロスは以前から口にしているYA-MANとの一戦を熱望する。昨年12月に大ケガをしてしまい現在YA-MANは長期欠場中だが、復帰を心待ちにしている。
「YA-MANは俺に『上に上がってこい』と言っていたじゃないですか。今年僕が勝ち続けたら、さすがに無視はできないでしょう」
地獄の番犬は麻火を地獄の奥底へと引きずり込み、夢の大一番に向かって一歩進むことができるのか。


